【第5話|筋膜は、体の動きにどう関わるのか】――触れた「硬さ」と、施術後の変化を考える


【「筋膜が硬い」と言われたら、何を思い浮かべるか】

床に落とした物を拾おうとしゃがんだとき、膝の周りがつっぱる。                       手を伸ばすと、腕のどこかが引っ張られるように感じる。                                          そんな経験はありませんか。

施術中に「筋膜が硬いですね」と言われたことがある方もいるかもしれません。                                            でも、筋膜はどこにあるのでしょうか。                                              施術者は何に触れ、何を確かめているのでしょうか。                                          「硬い」と言われても、痛みや動かしにくさとどう関係するのかは、分かりにくいと思います。

ひばり鍼灸整骨院の冨田です。第4話では、体幹と脚をつなぐ腸腰筋を取り上げました。                一つの筋肉を詳しく知ることで、脚の動きだけでなく、腰や骨盤の使い方、普段の生活で困っている場面まで考えられるようになります。

今回は、その筋肉の周りに目を向けます。                                         筋膜は、筋肉を包むだけでなく、皮膚の下や筋肉の間にもある組織です。                             ただ、「筋膜がある場所」と「そこが症状の原因であること」は、同じ意味ではありません。

私が体に触れるときも、手に伝わる抵抗だけで判断を終えないようにしています。                     しゃがむときのどの場面でつっぱるのか。                                         触れる方向を変えると感じ方は違うのか。                                             そして、施術のあと、困っていた動きはどう変わるのか。                                                   ご本人の言葉と実際の動きを合わせて確かめます。

【筋膜を学ぶほど、手に伝わる感触と、その方が困っている動きを丁寧に照らし合わせたくなります。】

今回は、筋膜が体のどこにあり、動くときにどう関わるのかを見ていきます。                       そのうえで、触れた「硬さ」や施術後の変化を、私はどう考えているのかをお話しします。

【第1節|筋膜は、体のどこにあるのか】

「筋膜」と聞くと、筋肉をぴったり包む薄い膜を思い浮かべるかもしれません。                       それも筋膜の一つの姿ですが、この言葉が指す範囲は、研究や施術の分野によって少しずつ異なります。   ここではまず、皮膚の下にある【浅筋膜】と、筋肉を包む【深筋膜】を中心にお話しします。

体の表面から順に見てみましょう。皮膚の下には脂肪を含む組織があり、その中に浅筋膜があります。    さらに奥へ進むと、筋肉や筋肉の集まりを包む深筋膜があります。                            筋肉と筋肉の間にも結合組織があり、それぞれの組織を区切りながら隣り合う部分との関係をつくっています。

たとえば太ももに手を当てて膝を曲げるとき、皮膚、その下の組織、筋肉が、すべて一つの塊として動くわけではありません。                                              腕を伸ばすときも同じです。                                     どの深さに、どのような組織があるのかを知ると、普段の動きを考える手がかりが増えます。

ただし、筋膜が全身にあるからといって、同じ厚さの膜が一枚で体を覆っているわけではありません。    場所によって層の重なり方や周囲の組織との関係は違います。                                           太ももで学んだ構造を、そのまま腰や肩に当てはめることもできません。

【筋膜を一枚の膜として考えるより、体のどこに、どのような層があるかを知るところから始めたいのです。】

筋膜について学ぶと、「体の組織はつながっている」という話をよく耳にします。                                    解剖を考えるうえで大切な視点です。                                                 一方で、膝の周りにつっぱりを感じる方について、離れた場所の筋膜がその原因だとつながりだけを理由に決めることはできません。

私はまず、どの動きで、どこに、どのような違和感が出るのかを伺います。                                     そのうえで、必要な場所の動きや触れたときの反応を確かめる。                                     筋膜の知識は、答えを先に決めるためではなく、患者さんの体を詳しく見るために使いたいのです。

【第2節|組織が「滑る」とは、どういうことか】

膝を曲げると、膝の前の皮膚も動きます。腕を伸ばすときには、肘の周りの皮膚や、その下にある組織の位置も変わります。普段は意識しませんが、体を動かすとき、重なり合う組織はすべて同じ速さ、同じ方向に動いているわけではありません。

前の節で、皮膚の下から筋肉の周りまで、いくつかの層があることをお話ししました。                        動きに合わせて、隣り合う層の間で少しずつ位置が変わる。                                           このような動きを考えるときに使うのが、【滑り】という言葉です。

四肢の深筋膜を顕微鏡で調べた研究では、筋膜の層の間に、比較的やわらかい結合組織があることが報告されています。層が重なりながら動く構造を理解する手がかりになります。                                   ただし、これは組織の構造を調べた研究です。                                   目の前の患者さんの「膝がつっぱる」という訴えの原因や、施術の効果まで示したものではありません。

では、私が施術中に滑りを気にかけるのはなぜでしょうか。

たとえば、膝を曲げるときに「前が引っ張られる」と話す方がいたとします。                              どのくらい曲げたところで感じるのか。                                 皮膚の表面に近い感覚なのか、それとも膝の奥の痛みなのか。                                   私が周囲に触れて動かしたとき、その感覚は普段のつっぱりと似ているのか。                           ご本人に伺いながら、動きと触れた感触を照らし合わせます。

【組織の滑りを知ることは、どの動きで、どこにつっぱりを感じるのかを考える手がかりになります。】

その際、手に抵抗が伝わったからといって、すぐに「筋膜の滑りが悪い」と決めることはしません。        膝の関節が動く範囲や、筋肉の働き、痛みを避けるための力みも動かしにくさに関わるかもしれないからです。

筋膜は周囲の組織とつながっています。                                                       だからこそ、触れた場所だけで話を終わらせず、実際に困っている動作へ戻って確かめたい。        解剖で学んだ「滑り」を、患者さんの感じ方と結びつけて考えることが、私にとって大切なのです。

【第3節|触れた「硬さ」と、時間で変わる性質をどう考えるか】

前の節では、重なり合う組織の「滑り」についてお話ししました。                                          では、私が手で触れて「ここは少し抵抗が強い」と感じたとき、何が分かったと言えるのでしょうか。

同じ場所でも、触れる方向を変えると手応えが違うことがあります。                           ゆっくり動かしたときと、少し速く動かしたときでも、伝わる感触は変わります。                  患者さんが痛みを心配して体に力を入れていれば、その力みも手に伝わります。

だから私は、抵抗を感じた場所だけでなく、そのときの体の位置や動かし方、ご本人の感じ方も確かめます。「ここに触れられると、いつものつっぱりに似ていますか」「動かすのをやめたあとも痛みは残りますか」。手で受け取った情報を、患者さんの言葉と合わせて考えたいのです。

ここで、組織の性質として知っておきたいのが【粘弾性】です。                                  組織は、力を加えた瞬間の反応だけでなく、力を加え続ける時間や、力を抜いて元に戻る過程によっても反応が変わります。

一定の力を加え続ける間に変形が少しずつ進む性質を【クリープ】、力を加えて変形させたときと、力を抜いて戻すときの反応が異なる性質を【ヒステリシス】と呼びます。名前を覚えるより、「どのくらいの力を、どのくらいの時間加えたかによって、手応えは変わり得る」と捉えていただければ十分です。

腰背部の筋膜を取り出して機械的に調べた研究でも、力を加える時間や、力を抜いたあとの休止によって反応が変わることが示されています。                                                    ただし、取り出した組織で確かめられた性質を、そのまま施術中の手応えの説明にすることはできません。

【硬く感じた、という手の情報を、そのまま組織の診断名に置き換えないようにしています。】

触れた抵抗が何に由来するかは、手の感覚だけでは決められません。                              まして、その場で抵抗が変わったとしても特定の筋膜が伸びた、あるいは癒着が取れたとまでは言えないのです。

それでも、手応えの変化は無意味ではありません。                                            痛みや力みはどうか。                                         最初に困っていた動きはどうか。                                      触れた感覚を一つの手がかりとして、次に何を確かめるかを考えていきます。

【第4節|施術後に動きが変わったら、何が分かったと言えるのか】

施術のあとに「さっきより動かしやすいです」と言っていただくことがあります。                              私にとってもうれしい瞬間です。                                                         ただ、その言葉を聞いたところで評価を終えず、最初に困っていた動きをもう一度確かめます。

たとえば、振り向くと首の後ろがつっぱる方なら、施術前と同じように振り向いていただきます。           どのあたりまで向けるか。                                                 途中の痛みやつっぱりはどうか。力を入れずに動けるか。                                   「楽になった」という感覚を大切にしながら、何が変わったのかを一緒に具体的にしていきます。

一方で、私の手に伝わる抵抗が減り、ご本人も動かしやすくなったとしても、それだけで「筋膜がはがれた」とは言えません。施術によって体の組織にどのような変化が起きたのかは、手で触れた感覚と動作の比較だけでは確かめられないからです。

動きやすさには、痛みの感じ方、体の力み、触れられたときの感覚、動作への慣れなども関わる可能性があります。徒手療法による変化の仕組みは研究が続いており、目の前の一人に起きた変化を、一つの仕組みだけで説明することはできません。

【動きやすくなったことは一緒に確かめられます。その理由を決めるには、別の情報が必要です。】

だからこそ私は、施術直後の変化を、次に何を確かめるかの手がかりにします。動きが変わったのは、どの方向か。痛みが軽くなったのか、動かすことへの不安が減ったのか。反対に、動く範囲は広がっても、普段のつらさは残っていないか。結果を見ながら、その日の施術や運動を考え直します。

さらに知りたいのは、院を出たあとのことです。                                                                                                                                                   その日の夜、振り向いたときはどうだったか。                                         翌日、家事や仕事の中でも動きやすさを感じたか。                                                 あとからつらさが増えたなら、それも次の方法や施術量を見直すための大切な情報です。

その場で起きた変化を丁寧に受け取り、生活の中でも役立っているかを追いかける。                               私は、そこまでを施術の一部として考えています。

【第5節|動く方向を手がかりに、施術を考える】

「腕を上げるとつらい」と聞いたとき、私はまず、どのように上げるとつらいのかを知りたいと思います。

体の前から上げるときか、横から上げるときか。それとも、後ろにある物を取ろうとして、腕を上げながらひねるときか。同じ肩を使っていても、動く方向や動作の組み合わせが違えば、困り方も変わります。

たとえば、前には上げられるのに、横へ広げると途中でつっぱる方がいます。                                               別の方は、腕だけなら動かせても、棚の奥に手を伸ばして物を引き寄せるときに痛みます。                   どちらも「肩が動かしにくい」という言葉だけでは、普段の困りごとを捉えきれません。

【手技の名前や触れる場所より先に、その方がどの方向に動くとき困っているかを知りたいのです。】

動く方向を整理するうえで、私が学んできたものの一つに、ステッコの【筋膜マニピュレーション】があります。この体系では、筋膜と動きの関係を考えるために、【CC(協調中心)】と【CF(融合中心)】という言葉を使います。CCは主に一つの方向への動き、CFは複数の方向が組み合わさる動きを考える際の手がかりです。

私はこれを、触れる場所を先に決めるためではなく、動作を詳しく見るための見取り図として受け取っています。前に上げる動きと、横へ広げる動きでは何が違うのか。腕をひねる動きが加わると、どこでつらくなるのか。ご本人に動いていただき、その感覚を伺いながら、次に何を確かめるかを考えます。

施術の方法を検討するときも、その方が困っている動きに戻ります。                               ある場所に触れて抵抗を感じても、その情報が普段の動かしにくさとどう関わるかは、まだ分かりません。  方法を選んだあとも、同じ動作で変化を確かめます。

学んだ体系には、それぞれ体を見るための考え方があります。しかし、特定の点に触れれば誰でも同じように変わる、とは考えていません。目の前の方の動きと反応を見て、選んだ理由を説明できること。そこに、私が学びを生かしたい理由があります。

【第6節|しゃがんで物を拾う動きを、一緒に確かめる】

ここまでの話を、「床に落とした物を拾おうとしゃがむと、膝の前がつっぱる」という方の例でつないでみます。判断の流れを説明するための架空の例です。

まず伺いたいのは、しゃがむ動作のどこで困るかです。膝を曲げ始めたときなのか、深くしゃがんだときなのか。物を持って立ち上がるときにもつらいのか。                                               「つっぱる」のは膝の表面に近い感じなのか、奥の痛みなのかも、ご本人の言葉で教えていただきます。

次に、無理のない範囲で実際にしゃがんでいただきます。膝だけでなく、股関節がどう曲がるか、足をどこに置いているか、体重をどう移しているかを見ます。                                         そして「今つっぱりましたか」「普段、物を拾うときと同じ感じですか」と伺います。                                院内で見えた動きが、生活の中の困りごとと同じかを知りたいからです。

必要に応じて膝や股関節の動きを個別に確かめ、膝の周囲にも触れます。                                         触れる方向を変えたときの抵抗や、ご本人の感じ方も見ます。                                      ただ、手に強い抵抗が伝わったとしても、それだけで「筋膜が硬くなっているからしゃがめない」とは判断しません。動作中の痛みや力の入れ方など、ほかに得た情報と照らし合わせます。

そのうえで、「床の物を、つっぱりを気にせず拾えるようになる」など、今回目指す変化を共有します。関節や周囲の組織への施術が適していると考えれば、反応を確かめながら行います。足の置き方やしゃがむ深さを変えて動きを練習するほうが役立つと考えれば、それも試します。選ぶ方法は、評価で分かったことと目的によって決めます。

取り組んだあとは、できるだけ施術前と同じ条件で、もう一度しゃがんでいただきます。                                      どこまで曲げられるかだけでなく、つっぱりや痛み、動くときのためらいがどう変わったかも伺います。

【手の中で感じた違いが、床の物を拾うという普段の動きに役立っているか。そこまで確かめたいのです。】

その場でしゃがみやすくなっても、筋膜の状態が変わったと証明されたわけではありません。        また、家でも同じように動けるかは、実際に試してみなければ分かりません。                         次回には、物を拾う場面でどうだったか、その後に痛みが増えなかったかを伺います。

変化が乏しければ、最初の見立てに戻ります。膝そのものの状態、股関節の動き、脚の力の出し方、足の位置など、次に確かめることを整理します。                                          限られた結果に合わせて方法を選び直し、普段の動作につなげていきたいのです。

【結び|筋膜を学び、触れる理由を言葉にする】

筋膜の場所や構造を知ると、体に触れるときに確かめたいことが増えます。                                            どの方向に動かすと抵抗が変わるのか。                                 ご本人が感じるつっぱりは、普段困っている動作でも現れるのか。                                        私にとって筋膜の知識は、答えを先に決めるためではなく、問いを具体的にするためのものです。

施術を選ぶときも、なぜそこに触れるのかを説明できるようにしたい。                                     施術後には、手に伝わる感触だけでなく、患者さんが困っていた動きや、その後の生活での変化まで確かめたいと考えています。

ひばり鍼灸整骨院の勉強会では、「何が見えたか」「どこからが私たちの推測か」「次に何を確かめるか」を、スタッフ同士で言葉にして検討します。知識と技術を学び、実際の施術に結びつけ、結果を振り返る。     その積み重ねが、技術開発とスタッフ教育の土台になります。

【見えない組織を学ぶからこそ、目の前で確かめられる変化と、その方の暮らしに丁寧に向き合いたいのです。】

知識と技術を探求し続けることは、ひばり鍼灸整骨院の大切な姿勢です。                                        その学びを、一人ひとりに伝わる説明と施術へ届けていきます。

次回は【内臓と胆嚢】を取り上げます。体の奥の構造へ視点を広げ、腹部の訴えや施術中に見られた変化をどう受け止めるか、私の考えをお伝えします。

お身体のことでお困りの方は、相模原院・矢部院へご相談ください。                                          「どんな動きをすると気になるか」など、普段の生活で感じていることからお聞かせください。

【ひばり鍼灸整骨院 相模原院】

住所:〒252-0216
神奈川県相模原市中央区清新1-6-1 ドゥセゾン1階
アクセス:JR横浜線 相模原駅南口から徒歩7分
電話:042-810-0393
駐車場:5台あり
公式サイト・ご予約案内: ひばり鍼灸整骨院 

【矢部駅前ひばり鍼灸整骨院 矢部院】

住所:〒252-0232
神奈川県相模原市中央区矢部3-1-19 エトワール藤1階
アクセス:JR横浜線 矢部駅南口から徒歩1分
電話:042-707-8925
駐車場:矢部吉行駐車場10番・11番、提携コインパーキングあり
公式サイト・ご予約案内:矢部駅前ひばり鍼灸整骨院

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