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【導入|その小さな動きで、何を調べているのか】
施術中、腕を支えられて、ゆっくりと小さく動かされる。 「今、何を調べているのだろう」と感じたことはありませんか。
私がそのとき見ているのは、どのくらい動くか、手にどのような抵抗が伝わるか、そして患者さんがどう感じているかです。「このあたりは、いかがですか」と伺うのも、その感覚を知りたいからです。
「そこは少し痛みます」「その向きなら楽です」。そうした言葉を受け取りながら、 次の働きかけを選んでいます。
ひばり鍼灸整骨院の冨田です。第1話では、自費施術の開発に取り組むようになった経緯と、肩こりを筋肉の硬さだけで考えないという私の姿勢をお伝えしました。今回は、関節の動きを手で調べ、施術につなげる過程をお話しします。
【手を動かす前に、私は、その操作で何を知り、何を変えたいのかを考えています】
なぜ、その強さなのか。なぜ、その方向へ動かすのか。小さな操作にも、一つひとつ理由があります。
関節の動きから何を読み取り、どのように方法を選び、毎日の動作へつなげるのか。普段は見えにくい、 施術の中での判断を一緒にたどっていただければと思います。
【第1節|関節の「小さな動き」に目を向ける】
服の袖に腕を通す。洗濯物を干す。そうした動作に困っている方には、まず、無理のない範囲で実際に 動いていただきます。
私が見たいのは、腕がどこまで上がるかと、その途中の様子です。動き始めは楽でも、途中からつらくなるのか。肩や体をどのように使っているのか。ご自身で動く姿から、普段の動かしにくさを知る手がかりが得られます。
次に、私が腕を支えて動かすことがあります。できるだけ力を抜いていただき、動く範囲や痛み、手に伝わる抵抗を調べます。
自分で腕を上げる場合と、腕の重さを支えられて動く場合では、感じ方が違うこともあります。「支えてもらうと、このあたりまでは楽です」という言葉があれば、その違いを次に調べる手がかりにします。
さらに必要に応じて、関節の近くを支え、もっと小さな動きにも目を向けます。
腕を上げるとき、肩の関節では、向かい合う骨の面の間で滑りや転がりなどの動きが起きています。外から見える「腕を上げる」という動きには、こうした関節の中の動きも伴っています。
関節面の滑りなど、自分ではそれだけを意識して行いにくい動きを【副運動】と呼びます。手で支えながら小さく動かし、方向によって動きや抵抗がどう違うかを調べます(参考資料1)。
こうした評価を踏まえ、関節を手でゆっくり動かすなどして、痛みや動かしにくさの軽減を目指す方法の一つが【関節モビライゼーション】です(参考資料1)。
同じように手で動かしていても、動きの特徴を調べる場面と、改善を目指して働きかける場面があります。私は、そのときの目的を持って手を使います。
【第2節|動かしにくさを、痛みと抵抗から考える】
「腕が上がりにくい」という方が、二人いらっしゃるとします。ここでは架空の例として、動きの違いを見てみましょう。
一人目は、腕を少し動かしたところで「もう痛いです」と感じる方です。私が支えて動かそうとしても、肩まわりに力が入り、それ以上動かすことをためらう様子があります。
この場合、知りたいのは、どこから痛みが出て、動きを止めるとどうなるかです。すぐに落ち着くのか、しばらく残るのか。無理に先へ進めず、負担の少ない範囲で反応を見ます。
二人目は、途中までは比較的楽に動かせるものの、ある位置から手に伝わる抵抗が増してくる方です。ご本人も「この先がつっぱる感じです」と話します。
こちらでは、抵抗が増す方向や、そのときに痛みも出るかを調べます。痛みが先に現れる場合と、抵抗が増した先で痛みが出る場合。その違いによって、次に調べることや施術の進め方が変わります。
【どこまで動いたかに加えて、どこで、何を感じて動きが止まったのかを知りたいのです】
こうした評価で使う言葉に、【エンドフィール】があります。動かせる範囲の終わりに近づいたとき、手に伝わる感触のことです。徐々につっぱりが増すのか、急に動きが止まるのか。角度だけでなく、その終わり方にも目を向けます(参考資料2)。
ただし、痛みが先に強くなれば、十分に感触を調べられないこともあります。その場合は、「痛みのため、ここまでしか確認できなかった」と受け止めます。
もう一つ、動きの限界や制限を整理する言葉が【バリア】です。体にもともとある動きの限界と、それより手前に現れている制限などを、分けて考えるために使います(参考資料2)。
例えば、痛みで腕を止めた位置を、そのまま「関節がそこまでしか動かない」と判断すると、捉え方が狭くなります。何が動きを止めているのかを、もう少し詳しく調べる余地があります。
一方、手に硬い抵抗を感じたからといって、特定の組織が傷んでいると決めることもできません。触れた感触は、その方の状態を理解するための情報の一つです。
痛み、抵抗、体を守るような筋肉の反応を、動きの中で整理する。この見方は、私が学んできたメイトランドの評価にも通じています(参考資料3)。
【第3節|施術の強さは、何を基準に決めるのか】
「前回より、今日はそっと動かしているな」
施術を受けながら、そんな違いに気づくことがあるかもしれません。同じ方の同じ関節でも、その日の痛みや動きやすさによって、力加減は変わります。
調整するのは、手で加える力の大きさだけではありません。動かす幅、速さ、続ける時間、繰り返す回数も含めて、施術の量を考えます。小さな動きで短く働きかけるのか、少し広い範囲をゆっくり動かすのか。こうした組み合わせを選びます。
その土台として学んできたのが、カルテンボーンやメイトランドの【グレード分類】です。手で行う操作を、段階に分けて整理する考え方です。
カルテンボーンでは、関節への圧迫を減らすためのごく軽い操作、周囲の組織のゆるみを取り、張りを生じさせる操作、さらに伸ばす操作を区別します(参考資料4)。
メイトランドでは、動かす幅の大小と、動く範囲のどの位置で操作するかを組み合わせて分類します。二つの分類は、操作を分ける基準が異なります(参考資料3)。
私にとって、これらは力加減を具体的に考え、振り返るための言葉です。分類を覚えたうえで、今の患者さんにはどんな操作が適しているかを判断する必要があります。
【その方の状態と、今回目指す変化に合わせて、加える力を選びます】
例えば、少し動かしただけで痛みが増すなら、動かす幅や時間を減らすことを検討します。反応によっては、いったん止めて状態を調べ直します。
抵抗が増す位置へ働きかける場合も、そのときの痛みや体の力みに注意を向けます。最初に決めた量を、必ず最後まで続けるわけではありません。
「今の動かし方はいかがですか」「止めたあとも痛みが残りますか」。こうした問いかけを通じて、続けるか、量を変えるか、中止するかを判断します。気になる感覚があれば、小さなことでも教えてください。
また、前回の施術後につらさが増えたと分かれば、その経過も今回の力加減に反映します。その場での反応と、その後の経過の両方から、施術量を調整していきます。
【第4節|動きやすい方向へ導くのは、なぜか】
動かしにくい方向が分かると、「そこを少しずつ広げていくのだろう」と思うかもしれません。けれども、施術ではいったん動きやすい方向へ関節を導くこともあります。
この方向の選び方を整理するうえで、ここではオステオパシーで使われる【直接法】と【間接法】という言葉を紹介します。
制限のある方向へ関節を動かし、その制限に働きかけるのが直接法です。一方、制限から離れ、動きやすい方向へ導くのが間接法です。関節の位置を調整し、抵抗が少なくなるところを探ります(参考資料2)。
例えば腕を支えて動かすとき、ある向きではつっぱりが増しても、少し角度を変えると楽に感じることがあります。
そのようなとき、私は支える位置や腕の向きを少し変え、「さっきと比べてどうですか」と伺います。痛みや体の力みが強く出る向きがあれば、別の位置から働きかける余地がないかを探すのも、一つの選択です。
動きやすい方向へ導くのは、その時点で無理なく働きかけられる位置を探すためです。その位置から、痛みや動かしにくさの軽減を目指します。
【力の大きさと同じように、どの方向へ働きかけるかも、施術を考える大切な要素です】
このような位置や方向の違いを学ぶ中で、私が参考にしてきた手技の一つが【LAS(エルエーエス)】です。英語のLigamentous Articular Strainの略で、関節を支える靱帯の張力のバランスに着目する考え方です(参考資料2)。
私にとっては、一方向だけを調べて終わらず、いくつかの位置で手応えを比べる視点を持つための学びでもあります。
ただし、手応えが変わっただけで、「靱帯の張力が整ったから症状が改善した」とまでは言えません。施術を考えるための理論と、その効果や仕組みを裏づける研究は、分けて受け止めています。
また、「急性なら間接法、慢性なら直接法」と一律に選ぶこともしません。症状の経過や動かしたときの反応を踏まえ、その方に合う方向を検討します。
【第5節|手技の名前から、患者さんに必要なことへ】
新しい手技を学ぶと、「この方法なら、あの患者さんの力になれるかもしれない」と考えます。学んだことを施術に生かせる場面が見えてくるのは、うれしいものです。
同時に、目の前の方が今、何に困っているのかを見失わないようにしたい。使える方法が増えるほど、何を目的に選ぶのかを、はっきりさせる必要があると感じています。
メイトランドやカルテンボーンなどを学ぶ中で、私が身につけたいのは、手の置き方や動かし方と、その操作を選ぶまでの考え方です。痛みの現れ方、関節の抵抗、ご自身で動いたときの様子を、どのように施術の判断へつなげるか。複数の学びを通じて、その見方を広げてきました。
それぞれの体系が扱う内容も幅広く、例えばメイトランドには、手技とともに運動や患者教育が含まれています。患者さんが自分の状態を理解し、日常でどう対処していくかも、その考え方の一部です(参考資料5)。
また、オステオパシーを創始したA.T. Stillの思想に触れることも、解剖を学び、身体全体のつながりを考える背景になっています。歴史から得た視点は、現在の知見と照らし合わせながら生かしたいと思っています(参考資料6)。
【私が増やしたいのは、患者さんの状態に合わせて、理由を持って施術を選べる力です】
仮に、施術後に「痛みは軽くなったけれど、服を着るときはまだ動かしにくい」と言われたら、痛みが軽くなった点と、残っている困りごとを分けて捉えます。
そこで次に必要なのは何か。関節の動きをさらに調べるのか、ご自身で動かすときの使い方や不安を確かめるのか。残った難しさを理解してから、次の方法を検討します。
場合によっては、手で働きかける方法を変えることもあれば、動作の練習や、ご本人が取り組める運動を提案することもあります。その選択を「服を着るときの、どの困りごとを減らしたいからなのか」と説明できることが大切です。
選んだ理由が明確なら、期待した変化が出なかったときにも、どこから考え直すかが見えてきます。目的、方法、結果をつなげて振り返ることで、学んだ知識が次の判断に使えるものになります。
患者さんにも、「今日は何を目指すのか」「そのために何をするのか」が伝わる施術にしたい。複数の体系を学ぶことを、そうした説明と選択を支える力に育てていきます。
【第6節|施術で得た変化を、日常の動きにつなげる】
ここまでの話を、「高い棚へ物を置くときに、肩がつらい」という方の例でつないでみます。判断の流れを説明するための架空の例です。
この方の目標は、普段使う棚へ、無理なく物を出し入れできること。そのためにまず、腕を上げる途中で痛むのか、棚の高さまで届かないのか、物を持ったときだけつらいのかを伺います。棚の高さや物の重さも、知っておきたい条件です。
次に、ご自身で動いたときの様子と、私が支えて動かしたときの反応を調べます。その結果から、今回の施術では何を優先するかを相談します。例えば、まずは腕を上げる途中のつらさを軽くすることです。
関節への施術が適していると考えれば、目的と反応に合わせて強さや方向を選びます。施術後は、できるだけ施術前と同じ条件で腕を上げていただき、届く高さ、途中の痛み、動かすときの不安などを比べます。
もし動かしやすくなったなら、次は棚へ物を置く動作へ進みます。状態に応じて軽い物で動きを試したり、無理なく届く高さで練習したりします。腕を上げる動きが楽になったあとに、物を持つとどうかまで見ていくのです。
自宅で取り組む運動を提案するときも、実際に行っていただき、動かす範囲や回数を調整します。ご本人が一人でも行えるか、生活の中で続けられそうかも相談します。
また、よく使う物を低い棚へ移すなど、今の負担を減らす工夫も選択肢になります。生活の不便を軽くしながら、必要な動作に取り組めるようにしたいからです。
次回は、家で物を出し入れしたときの様子や、運動後の反応を伺います。施術室で一度できた動きが、実際の生活でも役立っているかを知りたいのです。
一方、変化が乏しい場合は、最初の見立てや方法を見直します。つらさが増す場合はいったん止め、状態を確かめ直します。必要に応じて医療機関での評価も含め、方針を考えます。
なお、動きが変わったことと、その変化の仕組みが分かったことは別です。起きた変化を丁寧に捉え、その後の経過も含めて施術の結果を受け止めます。
【手の中で感じた変化が、その方の生活で役立つ変化になっているか。そこまで見届けたいのです】
【結び|触れる技術と、判断する力を磨き続ける】
関節に触れ、小さく動かす。その短い時間にも、体の反応を読み取り、次の働きかけを選ぶ過程があります。 今回は、普段は見えにくいその部分をお伝えしてきました。
ひばり鍼灸整骨院では、月例の勉強会や技術の練習を行い、知識の習得と施術の開発に力を注いでいます。
触れた感覚を言葉にし、方法を選んだ理由を説明する。スタッフ同士で実技を確かめ、感じ方や判断の違いを 検討する。そうして、学んだ知識を施術で使える力に育てていきます。
【触れる技術と、その情報から判断する力。その両方を磨くことをひばり鍼灸整骨院の強みにしていきます】
学び続け、施術をよりよくしていく姿勢は、当院の大切なアイデンティティです。研究と技術開発を担う私も、その学びを、患者さんに伝わる説明と、一人ひとりに合わせた施術へ届けていきます。
次回の題材は「姿勢制御と神経系」です。立つ、手を伸ばす、バランスを保つ。そうした動きを支える感覚や神経の働きへ、視点を広げます。
体のつらさや動かしにくさでお困りの方は、相模原院・矢部院へご相談ください。毎日のどんな場面で困っているのか、お聞かせください。
【参考資料】
用語の定義や、評価・施術の考え方を整理するために参照した資料です。
資料1|関節の副運動とモビライゼーション
Scifers JR. Joint Mobilization. In: Therapeutic Exercise: From Theory to Practice. 第6章。
出版社の掲載ページ
資料2|エンドフィール、バリア、直接法・間接法、LASの用語
AACOM. Glossary of Osteopathic Terminology. 第3版、2017年。
AACOM公式案内
資料3|メイトランドの評価とグレード分類
Hengeveld E, Banks K, eds. Maitland’s Peripheral Manipulation: Management of Neuromusculoskeletal Disorders, Volume 2. 第5版。第1章。
IMTA「To B or not to B? A new digital movement diagram」
IMTAの解説
資料4|カルテンボーンのグレード分類
Kaltenborn FM. Manual Mobilization of the Joints, Volume II: The Spine. 第4版。第2章。
著者公式の書籍案内
資料5|手技・運動・患者教育を組み合わせる考え方
International Maitland Teachers Association(IMTA)「What is the Maitland Concept?」
IMTA公式サイト
資料6|A.T. Stillの歴史と身体全体への視点
A.T. Still University, Museum of Osteopathic Medicine「A.T. Still Biography」
A.T. Stillの略歴
A.T. Still University, KCOM「Whole Person Healthcare」
身体全体を捉える考え方
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