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― 体幹と脚をつなぐ筋肉から、動きやすさを探る ―
【導入|「腸腰筋が大切」と聞いたことはありませんか】
腰の痛みがなかなか取れず、何か自分でできることはないかと調べてみる。すると、「腸腰筋を伸ばしましょう」「腸腰筋を鍛えることが大切です」という言葉が目に入ることがあります。
伸ばしたほうがよいのか、鍛えたほうがよいのか。そもそも腸腰筋とは、どこにある筋肉なのか。名前を知っていても、自分の腰の痛みとどう関係するのかは、分かりにくいかもしれません。
ひばり鍼灸整骨院の冨田です。
第3話では、立つ、歩くといった動きを支える感覚や神経の働きについてお話ししました。今回は、その全身の動きという視点をもとに、体幹と脚をつなぐ【腸腰筋】に目を向けます。
私が腸腰筋について学ぶときに考えるのは、患者さんが困っている動作との関係です。長く座ったあとの歩き出しがつらいのか。階段で脚を持ち上げにくいのか。同じ「腰が痛い」という言葉でも、生活の中で困る場面は違います。
【伸ばすか、鍛えるかを考える前に、その方の動きの中で、腸腰筋がどう関わっているのかを知りたいのです。】
筋肉の場所や働きを知ると、自分の体を考える手がかりが増えます。そこに実際の動きや痛みの経過を重ねて、その方に合う方法を探していきます。
今回は、腸腰筋の基本的な働きから、「硬い」「弱い」という言葉の捉え方、施術や運動を選ぶまでの考え方をお話しします。ご自身の生活を思い浮かべながら、読み進めていただければと思います。
【第1節|腸腰筋は、どこで、何をしているのか】
階段を上るとき、次の段へ足を乗せるために太ももを持ち上げる。この身近な動きに関わっている筋肉の一つが、腸腰筋です。
腸腰筋は、【大腰筋】と【腸骨筋】をまとめた呼び名です。大腰筋は主に腰の背骨の両脇から、腸骨筋は骨盤の内側から始まり、どちらも股関節の前を通って、太ももの骨へ向かいます。お腹の奥で、背骨や骨盤と脚をつないでいる筋肉を思い浮かべてみてください。[1]
代表的な働きは、股関節を曲げることです。立った姿勢で膝を前へ持ち上げたり、椅子に座って太ももを浮かせたりするときの動きです。階段に足を乗せる、ズボンに脚を通すといった場面にも、この働きが関わります。
ここで、立ったまま脚を上げる場合と、椅子に座って上げる場合を比べてみましょう。立っていれば、反対の脚で体を支える必要があります。座っていれば、お尻と座面の接触が支えになります。脚の動きが似ていても、腰や骨盤を支える条件は違います。
健康な成人7人を対象に大腰筋と腸骨筋の活動を調べた研究でも、姿勢や動作の課題によって、二つの筋肉の働き方が異なることが報告されています。腰痛への治療効果を示した研究ではありませんが、筋肉がどのような条件で働くのかを考える手がかりになります。[2]
【腸腰筋の働きを考えるときは、脚の動きと、それを支える腰や骨盤の様子を一緒に見ています。】
私が動作を見るときも、脚が上がる高さに加えて、腰や骨盤がどう動き、その方がどこに負担を感じるかに注目します。腸腰筋を、実際に体を使う場面の中で理解したいからです。
動きのイメージを持つ参考として、私たちが作成した運動動画もご紹介します。
【参考動画|ひばり鍼灸整骨院で紹介している腸腰筋の運動】
これは運動の一例です。取り入れる際は、ご自身の状態や目的に合わせて、動かす範囲や負荷を調整することが大切です。
【第2節|「硬い」「弱い」「使えていない」を、どう確かめるか】
「腸腰筋が硬いですね」「この筋肉が弱いですね」。施術や運動の説明で、こうした言葉を耳にすることがあります。分かりやすい表現ですが、何を指しているのかを具体的にすると、体の状態をより詳しく共有できます。
たとえば「硬い」には、ご本人が感じている張り、手に伝わる抵抗、関節を動かせる範囲の狭さなど、異なる意味が含まれます。「張る感じがする」ことと、「実際に動く範囲が狭い」ことは、分けて確認したい情報です。
「脚の付け根が張る」と言われたら、座っているときなのか、歩いて脚が後ろへ動くときなのかを伺います。動く範囲が狭ければ、痛みで止めているのか、つっぱって進めないのか。「硬い」という言葉の中身を、少しずつ明らかにしていきます。
「弱い」については、筋力を確かめることに加えて、力を出すときに何が起きているかも知りたいところです。脚を上げようとすると痛むのか。「また痛くなりそう」とためらうのか。ご本人の感覚を聞きながら、力の出しにくさを捉えます。
そして、特に意味をはっきりさせたいのが、「使えていない」という言葉です。
【「使えていない」という言葉で終わらせず、何をするときに、どんな難しさがあるのかまで具体的にしたいのです。】
靴下をはくために脚を持ち上げにくいのか、階段で足を次の段へ乗せにくいのか。困る場面が分かれば、調べる動作や条件を選びやすくなります。
必要に応じて、自分で脚を持ち上げたときと、私が支えて動かしたときを比べます。股関節を伸ばす動きや、歩く様子も見ながら、難しさが現れる条件を整理します。
脚を上げる動きには、腸腰筋以外の筋肉も関わります。また、一般的な力の検査で、大腰筋と腸骨筋の働きを完全に分けて捉えることも難しいものです。[1]
だからこそ、「どの動きで張る」「どの条件で力を出しにくい」といった確認できたことから、患者さんにお伝えします。その情報をもとに、次の評価や施術へ進んでいきます。
【第3節|長引く痛みを、一つの筋肉からどう考えるか】
院内で動きを調べて分かったことは、痛みが始まってから今までの経過と照らし合わせます。
いつ頃から痛むのか。思い当たるきっかけはあったのか。仕事中と休日ではどう違うのか。こうした話から、今見えている体の状態が、どのような経過の中で現れているかを考えます。
筋肉の張りと痛みが同時にあっても、その関係は一つに決められません。第3話でも触れたように、痛みを避けようとして動き方が変わることもあります。今の体の使い方が、痛みの前からあったのか、痛みが出てから変わったのか。その違いも知りたいのです。
生活についても、必要なことを伺います。仕事で座り続ける時間は長いか、家事でつらくなる動作はあるか。痛みが気になって外出が減っていないか、休息や睡眠は取れているか。負担が重なる場面と、少し楽に過ごせる場面を探します。
【腸腰筋の状態を調べることと、その方の痛みがどのような生活の中で続いているかを知ること。その両方が、施術を考える手がかりになります。】
WHOが2023年に公表したガイドラインでも、身体・心理・社会的な要因を踏まえ、一人ひとりに合わせた支援を重視しています。対象は、特定の病気などでは説明されない、3か月を超えて続く「慢性一次性腰痛」です。すべての慢性痛を扱うものではありませんが、その人の状況を広く知る大切さを学ぶ資料の一つです。[3]
生活の話は、取り組める方法を考える際にも役立ちます。仕事を休めない方なら、今の働き方の中で調整できることを探す。運動に不安がある方なら、何を心配しているのかを聞く。提案する側が、その方の事情を理解する必要があります。
一方、経過や症状から別の病気などを考える必要があれば、医療機関での確認をお勧めします。施術で対応できる範囲を判断することも、私たちの役割です。
腸腰筋について得た情報に、痛みの経過と生活の背景を重ねる。そこから、その方に必要な支援を考えていきます。
【第4節|体の奥にある筋肉だから、周りとの関係も学ぶ】
ここからは、腸腰筋の周囲へ目を向けます。解剖図で筋肉の形を覚えることに加え、その前後や左右に何があるかを知ることも、体に触れる仕事には欠かせません。
大腰筋の内部には、腰から脚へ向かう神経の集まりがあります。前側には尿管が通り、近くには腎臓や血管もあります。お腹の奥では、さまざまな働きを持つ組織が隣り合っているのです。[1]
私は、こうした位置関係を、前から見た図だけで覚えないようにしています。横から見るとどう重なるか、体の表面からはどのくらい奥にあるか。筋肉を包む筋膜も含め、立体的に捉えることを大切にしています。
その知識は、どこに、何のために触れるのかを考える土台になります。深い場所にある筋肉だからといって、強く押せば詳しく分かるわけではありません。触れる場所や体勢を選び、患者さんの感じ方に応じて力加減を調整します。
【周りの構造を学ぶほど、触れた感覚だけで何かを決めず、何を確かめる必要があるかを考えるようになります。】
動作を見るときにも、腸腰筋の近くだけに視線を固定しないようにしています。たとえば、脚を上げるたびに息を止め、腰を大きく反らしていたら、その方がどこに力を入れ、どう脚を動かそうとしているかを伺います。必要に応じて体勢を変え、動かしやすさや負担の違いを比べます。
腹部の張りなどを訴える方についても、いつ、どのような場面で感じるかを確認します。解剖を知ることで、尋ねたいことは増えますが、その答えは実際の症状や経過から探していきます。
ここで区別したいのは、【解剖上の位置関係】と、【症状の原因や施術の効果】です。内臓や神経が近くにあることだけを根拠に、腸腰筋の緊張がそれらの不調を起こしている、あるいは施術で働きが改善するとは説明できません。
筋膜や内臓については、後の回で詳しく取り上げます。周囲まで学ぶことで見る範囲を広げ、確認できたことをもとに判断する。この姿勢を大切にしたいと思っています。
【第5節|伸ばす、鍛える、その前に目的を決める】
「腸腰筋を柔らかくしたい」「もっと鍛えたほうがよいでしょうか」。そうした相談を受けたとき、私がまず伺いたいのは、その先にある希望です。歩き始めのつらさを減らしたいのか、階段で脚を上げやすくしたいのか。何ができるようになれば生活が楽になるのかを、一緒に整理します。
「股関節の動く範囲を広げる」という目標も、「階段の一段目に、足を楽に乗せられるようにする」と考えると、目指す変化を共有しやすくなります。取り組んだあとに、何を比べるかもはっきりします。
【私が施術や運動を選ぶときに考えるのは、それが、その方の「できるようになりたいこと」につながるかどうかです。】
脚を持ち上げにくい方でも、必要な動きの範囲が足りないのか、力を出しにくいのか、立った状態で体を支えることが難しいのかによって、検討する方法は変わります。
動く範囲への働きかけが必要なら、施術や、その方向へ少しずつ動かす運動を検討します。筋力を高める必要があれば、その方が取り組める負荷から始めます。脚を上げる動きはできても、階段で難しさがあるなら、支えを使いながら足を乗せる動作を練習することもあります。
これらを組み合わせる場合も、何を目的に行うのかを患者さんに説明します。「まず脚を動かせる範囲を確認しましょう」「次に、立った状態で足を乗せてみましょう」。今行っていることと、生活で目指す動作とのつながりが分かるように伝えたいのです。
腸腰筋に注目した運動を選ぶ場合も、その先を見ます。脚を持ち上げる運動で得た動かしやすさが、立ったときや歩くときにも役立っているか。施術後に楽になったなら、その変化を生かして、どの動作に取り組めるか。方法を選ぶ際には、こうした見通しも持ちたいと考えています。
また、一度選んだ内容を、そのまま続けるとは限りません。運動中の痛みや、後に残る疲れ、日常での変化によって、負荷や量を調整します。仕事や家事の合間に取り組めるかも、続けるうえで大切です。
目標を共有し、方法を選び、結果を見て組み直す。その過程を患者さんと一緒に進めることが、私の考える施術と運動の提案です。
【第6節|座ったあとの歩き出しを、一緒に考える】
ここまでの話を、「長く座ったあと、腰がつらく、歩き出しにくい方」の例でつないでみます。判断の流れをお伝えするための、架空の例です。
まず、どのくらい座るとつらくなるのかを伺います。立った直後に腰を伸ばしにくいのか、最初の一歩で痛むのか。歩き続けるとどうなるかも聞きます。
ここでは、「仕事で座り続けたあと、最初の数歩がつらい。しばらく歩くと落ち着く」というお話だったとします。この経過から、腸腰筋の状態を決めつけず、実際の動きへ確認を進めます。
無理のない範囲で歩いていただき、歩幅や体の動かし方と、腰が気になるタイミングを見ます。必要に応じて股関節の動く範囲や、脚を上げる際の力の出し方も調べます。
目標は、「仕事中、席を離れて歩き出すときのつらさを減らすこと」です。評価を踏まえ、ここでは股関節を無理なく動かす運動と、短い距離を歩く練習から始めたとしましょう。
取り組みの前後で、痛みや一歩目の出しやすさを比べます。ご本人が「さっきより歩きやすい」と感じたとしても、院内では、仕事中と同じ長さの時間を座って過ごしたわけではありません。普段の場面でも役立つかは、その後に確かめる必要があります。その変化だけで、腸腰筋が原因だったと結論づけることもできません。
【院内で動きやすくなったことを、仕事のあとや家での歩き出しにもつなげられるか。そこまで考えて、取り組みを組み立てたいのです。】
そこで、仕事の流れも伺います。作業の区切りに席を離れられるか、休憩の時間を利用できるか。座り続ける時間をどう区切れば実行しやすいかを相談します。院内で試した運動も、できそうな場所やタイミング、量を一緒に決めます。
次回は、「運動できましたか」だけで終わらせません。仕事中に席を離れたとき、最初の数歩はどうだったか。つらさが落ち着くまでの様子や、その日の夜、翌朝の疲れ方も伺います。生活の中での変化が、続ける内容を考える材料になります。
もし院内では楽でも、仕事のあとには変わらないなら、その違いから考え直します。座る時間や仕事の負担、筋力や関節の状態など、追加で調べたいことを整理します。つらさが増す場合は、運動をいったん止めることも含め、状態と方針を確認します。
目指したいのは、普段の生活で「前より動き出しやすい」と感じられることです。院内で得た情報と、仕事や家庭での様子。その両方を聞きながら、取り組みを続けられる形に整えていきます。
【結び|一つの筋肉を深く学び、その方の生活へつなげる】
腸腰筋という一つの筋肉を入り口に、今回は、体の動きや長引く痛み、施術と運動の選び方についてお話ししました。筋肉の場所や働きを詳しく知ることは、患者さんの困りごとを理解するための問いを、より具体的にしてくれます。
私は、解剖や筋肉の働き、研究から得た知識を、実際の評価と説明に結びつけたいと考えています。なぜその施術を選んだのか。その後、生活でどのような変化があったのか。勉強会でも、こうした過程をスタッフ同士で言葉にし、次の判断に生かしていきます。
知識と技術の探求、技術開発、スタッフ教育に力を注ぐことは、ひばり鍼灸整骨院の強みであり、私たちが大切にしている姿勢です。その学びを、患者さんが納得できる説明と、一人ひとりに合った施術や運動へ届けます。
【一つの筋肉を深く学び、その知識を、一人ひとりの動きと生活に結びつける。その積み重ねを、ひばり鍼灸整骨院の力にしていきます。】
次回は【筋膜の構造と機能】へ進みます。筋肉を包み、周囲の組織とつながる筋膜を取り上げ、触れた硬さや施術後の変化をどう考えるかをお話しします。
長引く腰の痛みや動かしにくさでお困りの方は、相模原院・矢部院へご相談ください。普段の生活で気になる場面から、お聞かせください。
【ひばり鍼灸整骨院 相模原院】
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【参考資料】
[1]Elsevier, Complete Anatomy:Psoas Major/Iliacus Muscle
大腰筋・腸骨筋の解剖、働き、評価について。


[2]Andersson E, et al. The role of the psoas and iliacus muscles for stability and movement of the lumbar spine, pelvis and hip. Scand J Med Sci Sports. 1995;5(1):10–16.
[3]WHO. WHO releases guidelines on chronic low back pain. 2023.
院の案内:各院の公式サイトで確認。
