【第3話|私たちは、どうやって姿勢を保っているのか】― 立つ・歩く・手を伸ばす動作から、感覚と神経の働きを考える ―

【導入|何気なく立つ、その間にも体は働いている】

電車がゆっくりと動き始める。体が揺れると、足に力が入り、倒れないように踏ん張る。そんなとき、「今から足の筋肉を使おう」と、一つひとつ考えているわけではありません。

道を歩いていて、後ろから声をかけられたときも同じです。振り向きながら歩き続ける間にも、体は頭や腕の動きに合わせて、支え方を調整しています。

ひばり鍼灸整骨院の冨田です。

第2話では、関節に触れ、小さく動かしながら、私が何を確かめているのかをお話ししました。今回は、私たちが自分で立ち、歩き、手を伸ばすときの体の働きへ、視点を広げます。

体を支えるには、関節の動きや筋肉の力が必要です。そこに、周囲の様子や自分の動きを感じ取り、筋肉の働きを調整する感覚や神経の働きが加わります。

【何気なく立ち、歩いているときにも、体は周りの状況に合わせて、支え方を調整しています。】

「立っていると疲れる」「動き始めに力が入る」。そうした困りごとを理解するためにも、この仕組みを学ぶことが大切だと私は考えています。

体は何を手がかりに姿勢を保ち、次の動きに備えているのでしょうか。身近な場面から、一緒に見ていきましょう。

【第1節|姿勢を保つことは、動くこととつながっている】

「姿勢」と聞くと、背筋を伸ばした立ち姿や、椅子に座っているときの背中の形を思い浮かべる方が多いかもしれません。私も立ち姿や座り方を見ますが、そこから動き出したときに、体の支え方がどう変わるかにも注目しています。

たとえば、台所で立っているときと、少し離れたコップへ手を伸ばすときでは、必要な支え方が変わります。腕を前へ出せば、体全体の重さのかかり方も変わるため、脚や体幹もその動きに合わせて働きます。

歩き始めるときも、一方の足を床から離すには、もう一方の足へ体重を移していく必要があります。普段は意識しませんが、一歩を踏み出す動きには、体を支える準備が伴っています。

このように、立つ・動くときに、体の向きやバランスを調整する働きを【姿勢制御】と呼びます。

その調整の一つが、動き出す前から準備する【予測的な姿勢調整】です。腕を動かす課題を調べた研究でも、腕の動きに先立って、下肢や骨盤に姿勢の調整が起こることが示されています。これから行う動きに備えて、体が準備していると考えると、イメージしやすいでしょう。[1]

一方、予想していなかった揺れを受けてから、対応する働きもあります。冒頭の電車の場面で、踏ん張ったり、一歩足を出したりするような調整です。動く前の準備と、変化を受けてからの対応。その両方が、日常の動作を支えています。

こうした動きを見るとき、私は筋肉の力に加えて、関節が必要な範囲を動けるか、筋肉がどのタイミングで働くか、各部がどう協力しているかを考えます。力を出せることと、その力を動作の中で使えることを、合わせて知りたいのです。

【私が姿勢を見るときに知りたいのは、次の動きに向けて、体がどのように準備しているかです。】

その準備や調整を支えているのが、自分の体や周囲の状況を知らせる「感覚」です。

【第2節|体は、何を手がかりにバランスを保つのか】

夜中に薄暗い廊下を歩くとき、昼間より足元が気になることはありませんか。いつも通る場所でも、よく見えないと、一歩ずつ慎重になる。これは、動きを支える感覚の手がかりを考える身近な例です。

まず、目から入る情報があります。床や壁がどちらにあるか、目の前の物に自分が近づいているか。周囲との位置関係や見え方の変化が、体の向きや動きを知る手がかりになります。薄暗い場所では、この情報を得にくくなります。

耳の奥には、頭の動きや、重力に対する傾きなどを捉える仕組みがあります。ここから得られるのが【前庭感覚】です。振り向いたときや、体をかがめたときにも、頭がどのように動いたかを知らせる情報が、姿勢の調整に使われています。

さらに、自分の手足の位置や動きを捉える【固有感覚】があります。筋肉や腱などから届く情報が、この感覚を支えています。立っているときにも、足首や膝がどのくらい曲がっているか、どのように動いているかといった情報が、体を支える手がかりになります。

足の裏の皮膚から届く情報も大切です。床にどの部分が触れ、どこに圧がかかっているか。足の裏は、床との接触を通じて、支え方を調整するための情報を受け取っています。

ただし、足元の条件はいつも同じではありません。しっかりした床と、厚いクッションのような柔らかい面とでは、沈み込み方や足に伝わる感触が違います。体は、その場の条件に応じて複数の感覚を使い、バランスを保とうとします。

これらの感覚は、いつも同じ割合で頼りにされているわけではありません。姿勢制御の研究では、視覚や足元の条件に応じて、各感覚をどの程度利用するかが調整されると考えられています。[2]

【体は、目や足の裏、筋肉などから届く情報を手がかりに、今どこで、どう支えるかを調整しています。】

私が「どのような場所で動きにくさを感じますか」と伺いたいのも、このためです。明るさや床の状態など、普段の環境を知ることで、院内で動きを見るだけでは分からない困りごとを理解できる場合があります。

では、こうして届いた情報をもとに、私たちは自分の体をどのように捉えているのでしょうか。

【第3節|脳は、感覚をもとに「今の体」を捉えている】

手元を見ていなくても、自分の腕がどのあたりにあるかは、おおよそ分かります。肘を曲げているのか、手を膝に置いているのか。そのたびに目で確認しなくても分かるのは、体から届く感覚の情報を、脳が組み合わせて扱っているからです。

ドアの取っ手に手を伸ばすときには、取っ手の場所と、自分の手の位置との関係を捉える必要があります。そこから、どちらへ、どのくらい腕を動かすかを調整します。目的の動作には、「今、自分の体がどこにあるか」という情報が関わっているのです。

こうした体の捉え方を説明するとき、私は【身体の地図】という比喩を使います。

地図といっても、頭の中に一枚の人体図が置かれているわけではありません。見る、触れる、動かすといった経験を通じて、自分の体の位置や状態を捉え直していく。その働きをイメージするための言葉です。

この話をさらに広く考える視点として、私が学んでいるのが【皮質身体マトリックス(CBM)】です。これは、複数の感覚を組み合わせて体を認識することと、体の状態を保つための生理的な調節とを、結びつけて考えるために提案されたモデルです。[3]

先ほどの「身体の地図」よりも広い内容を含み、体を自分のものとして感じることや、体の周囲の空間をどう捉えるかにも目を向けます。私は、こうした考え方を、患者さんの動きと感じ方の両方に関心を向けるための視点として学んでいます。

【体を動かすことを考えるとき、私は、その方が自分の体をどう感じているかにも目を向けたいのです。】

たとえば「腕が上げにくい」という言葉でも、重く感じるのか、つっぱるのか、思った方向へ動かしにくいのかでは、伺いたいことが変わります。外から見える動きと、ご本人の感覚を重ねることで、何に困っているのかが、少しずつ具体的になります。

体の位置や動かし方を知ることに加えて、痛みがあるときには、その痛みを避けようとする動きにも目を向ける必要があります。

【第4節|痛みがあると、動き方が変わることがある】

腰が痛くて、靴下をはくときにいつもよりゆっくりかがむ。肩が痛くて、上着に袖を通す順番を変える。「また痛むかもしれない」と思うと、動き始める前から体に力が入る。こうした経験はないでしょうか。

痛みがあると、私たちは動く範囲を小さくしたり、速さを落としたり、ほかの部分を使って動いたりすることがあります。普段なら意識せずにできる動作にも、慎重さが加わります。

こうした変化には、痛む場所への負担を避けようとする【適応】という見方があります。そのときの体の状態に合わせて、動き方を変えていると考えるのです。痛みが強い時期には、かばうことが必要な場合もあります。

ただ、その現れ方は人によって違います。同じように腰が痛くても、体を固めるように動く方もいれば、腰をあまり動かさず、膝や股関節を使おうとする方もいるでしょう。実際の動きを見て、どのように対応しているかを知る必要があります。

健康な17人に実験的な腰痛を起こし、体幹の筋活動を調べた研究でも、痛みに伴う筋肉の使い方の変化には個人差が見られました。同じ課題を行っていても、全員が同じ筋活動の組み合わせで対応していたわけではありません。[4]

これは、実験で一時的に起こした痛みの研究です。長く続く腰痛の原因を、そのまま説明できるものではありません。それでも私は、一人ひとりの動きを確かめる大切さを考える手がかりにしています。

【その動き方には、痛みを避けようとする理由があるのかもしれません。私は、変えようとする前に、その理由を知りたいのです。】

ここで大切にしたいのは、かばう動きが、今の生活でどのような意味を持っているかです。痛みの強い時期に負担を減らすための動きと、痛みが落ち着いたあとも心配で避け続けている動きでは、考えたいことが変わります。

関節や筋肉の状態を調べるとともに、「どの動きが心配ですか」「以前、その動きで痛みましたか」と伺います。そして、今は負担を減らすことが必要なのか、取り組めそうな動きを少しずつ広げていけるのかを考えます。

かばう動きを見つけたからといって、すぐに直そうとはしません。今の体を守るために役立っているのか、それとも、やりたいことを難しくしているのか。その時期と生活の中での意味を考えながら、次の対応を選びたいのです。

【第5節|痛む場所から、体全体の動きへ目を向ける】

ここまで、感覚や神経、痛みと動きの関係をお話ししてきました。こうした知識は、私が患者さんを前にして「次に何を確かめるか」を考える土台になっています。

「肩が痛い」と伺えば、どこが痛むのか、いつから、どのような動きで気になるのかを確認します。そこから、肩を使って何をするときに困るのかへ、少しずつ視野を広げます。

たとえば、後ろに置いた荷物を取る動作なら、腕とともに、体の向きを変える様子も見ます。肩の動く範囲を詳しく調べたいのか、体をひねる動きとの組み合わせを見たいのか。困っている場面を知ることで、調べる目的が具体的になります。

私が学びを整理するときには、「上流から下流へ」「中枢から近位、末梢へ」という考え方を参考にすることがあります。神経系による感覚や運動の調整、体幹や肩甲帯の働き、手足の動きへと、見る範囲を整理するものです。

こうした【階層モデル】は、私にとって、見落としを減らすための学習上の見取り図です。その順番が、すべての方の痛みの原因や、施術の手順を示すわけではありません。実際に何を優先するかは、ご本人の困りごとと、調べて分かったことから考えます。

【どこから確かめれば、その方の動きにくさを理解できるのか。その順番を考えるためにも、私は体の仕組みを学んでいます。】

その際、一つの特徴が見つかっても、それが普段のつらさと関わっているかを確かめます。関節の動く範囲に左右差があっても、困っている動作との関係が分からなければ、ほかの情報も必要です。

予想した違いが見られなければ、最初の考えに戻ります。調べる範囲が足りなかったのか、注目していたことが違ったのか。得られた結果に応じて、評価の順番や施術の方針を見直します。

学んだ知識が、患者さんに尋ねる言葉や、動きを見る際の着眼点になる。そのようにして、私自身の判断を少しずつ確かなものにしていきたいと考えています。

【第6節|動きやすさを、一緒に見つけていく】

ここまでの話を、椅子から立ち上がるときに体に力が入り、動き出しにくい方の例でつないでみます。考え方を説明するための架空の例です。

まずは、お尻を座面から離すときに痛むのか、膝を伸ばすところで力が入りにくいのか、それとも動く前から「うまく立てるだろうか」と不安になるのかを伺います。

普段使っている椅子についても聞きます。食卓の椅子ではどうか、低くて柔らかいソファではどうか。肘掛けはあるか。その違いが分かると、院内で何を比べたいかも整理しやすくなります。

次に、転倒を防ぐために必要な支えを用意し、無理のない範囲で立ち上がっていただきます。足をどこに置いているか、体重をどう移しているか、股関節や膝がどのように動くか。「どのあたりで力が入りますか」「今、痛みはありましたか」と、ご本人の感覚も確かめます。

そのうえで、動く条件を一つずつ変えてみます。両足が床に着く範囲で座面を少し高くしたらどうか。足の位置を変えたらどうか。肘掛けなどに手を置くと、動き始めやすくなるか。一度にいくつも変えず、何を変えたときに違いが出たのかを見ていきます。

ここで、座面を少し高くすると「さっきより立ちやすい」と感じたとします。痛みが軽くなったのか、踏ん張る力が少なくて済んだのか、不安が減ったのか。立てたかどうかに加えて、どの部分が楽になったのかを伺います。

座面の高さが変われば、関節の曲がり方や筋肉に求められる力も変わります。そのため、動きが変わったことだけで、原因が特定できたり、特定の神経機能が改善したと分かったりするわけではありません。まずは「この条件では動きやすかった」という結果を、次の取り組みに生かします。

動きやすい条件が見つかれば、その条件で、負担を確かめながら練習します。立ち上がったあとに安定して立てるか、そのまま一歩を踏み出せるかも、必要に応じて確認します。

自宅ではどの椅子を使うと取り組みやすいか、安定した手の支えを用意できるかも相談します。練習の回数や時間は、その方の状態に合わせます。次の来院時には、実際の生活で試したときの様子や、その後の痛み、疲れ方を伺います。

一方、条件を変えても動きにくさが残るなら、筋力や関節の動きなどを改めて調べ、方針を見直します。痛みやつらさが増す場合は中断し、状態を確認します。

【どんな条件なら動きやすいのかを一緒に見つけ、それを普段の生活で使えるようにしていきたいのです。】

【結び|体の仕組みを学び、動きを見る力を磨く】

立つ、歩く、椅子から立ち上がる。毎日の何気ない動作にも、感覚や神経、筋肉、関節の働きが関わっています。そのつながりを理解することは、患者さんの「動きにくい」という言葉を、より具体的に受け止める助けになります。

だからこそ私は、解剖や生理、神経の知識を学び、体に触れ、動きを観察することを大切にしています。学んだ内容を実技と照らし合わせ、疑問が生まれたら資料や研究に戻る。その往復を続けたいと考えています。

勉強会でスタッフと共有したいのも、こうした考える過程です。何が見えたのか。ご本人はどう感じていたのか。どこまでが確認できた事実で、どこからが私たちの仮説なのか。言葉にして検討することで、それぞれの気づきを学びに変えていきます。

ひばり鍼灸整骨院は、知識と技術の習得、技術開発、スタッフ教育に力を入れています。この取り組みを、患者さんが納得できる説明と、一人ひとりに合わせた施術や運動の提案へ届けることが、私たちの目標です。

【体の仕組みを学び、その知識を目の前の動きに結びつける。この探求を続けることが、ひばり鍼灸整骨院の大切な姿勢です。】

次回は【腸腰筋と慢性痛】を取り上げます。今回お話しした全身の動きという視点をもとに、体幹と脚をつなぐ腸腰筋がどのように働き、慢性痛を考えるときに何を確かめたいのかをお伝えします。

【参考文献】

[1]Bouisset S, Zattara M. A sequence of postural movements precedes voluntary movement. Neuroscience Letters. 1981;22(3):263–270.
https://doi.org/10.1016/0304-3940(81)90117-8

[2]Peterka RJ. Sensorimotor integration in human postural control. Journal of Neurophysiology. 2002;88(3):1097–1118.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/12205132/

[3]Moseley GL, Gallace A, Spence C. Bodily illusions in health and disease: physiological and clinical perspectives and the concept of a cortical ‘body matrix’. Neuroscience & Biobehavioral Reviews. 2012;36(1):34–46.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/21477616/

[4]Hodges PW, Coppieters MW, MacDonald D, Cholewicki J. New insight into motor adaptation to pain revealed by a combination of modelling and empirical approaches. European Journal of Pain. 2013;17(8):1138–1146.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/23349066/

【ひばり鍼灸整骨院へのご相談】

体の痛みや動かしにくさでお困りの方は、相模原院・矢部院へご相談ください。普段の生活で「この動きがつらい」「こういう場面で困る」と感じていることから、お聞かせください。

【ひばり鍼灸整骨院 相模原院】

住所:〒252-0216
神奈川県相模原市中央区清新1-6-1 ドゥセゾン1階
アクセス:JR横浜線 相模原駅南口から徒歩7分
電話:042-810-0393
駐車場:あり
公式サイト・ご予約案内:
https://hibari-sagamihara.com/

【矢部駅前ひばり鍼灸整骨院 矢部院】

住所:〒252-0232
神奈川県相模原市中央区矢部3-1-19 エトワール藤1階
アクセス:JR横浜線 矢部駅南口から徒歩1分
電話:042-707-8925
駐車場:専用駐車区画・提携コインパーキングあり
公式サイト・ご予約案内:
https://yabe-hibariseikotu.com/

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